太子党
太子党(たいしとう、英: Crown Prince Party、拼音: )は、中国共産党の高級幹部の子弟等で特権的地位にいる者たちのこと[1]、あるいはその総称である。世襲的に受け継いだ特権と人脈を基にして、中国の政財界や社交界に大きな影響力を持つ。
解説
太子は日本語の「皇太子」と同じ意味。党組織だけでなく、コネを生かして企業経営等に関わる場合もある。なお大抵は親の方が地位・知名度共に上だが、曽慶紅のように子の方が出世した例もある。
高級幹部の子女が特権を享受しているのは国家クラスから末端の県、郷で見られ、親族への就職斡旋や裏口入学などが行われている。これは周辺を信頼できる身内で固めることで、自身の地位安定と一族の団結を図る中国の伝統的な大家族主義に由来している。
同じ利益を代表する一つの派閥と捉える報道もあるが、親が属したグループや各自の政治路線の違いもあり人間関係が一枚岩とは言えない[2]。
なお、「太子党」という呼称は便宜上マスコミが名づけたもので、特に本人たちが名乗っているわけではない。2012年に当選した韓国の大統領の朴槿恵や日本の首相の安倍晋三といった中国国外の世襲政治家も同時期に中国共産党総書記に選出された太子党出身の習近平と並べられて中華圏のメディアでは太子党と呼ばれている[3][4]。北朝鮮の金正日総書記の長男である金正男も中国の太子党に匿われていた関係もあって太子党と呼ばれたこともあり[5][6][7]、次男の金正哲が主宰する烽火組も北朝鮮版太子党と呼ばれている[8]。
近年は共産党内で出世する高官の娘が増えてきたこと、あるいは現在政権を動かす首脳陣に娘しかいないことに引っ掛けて「公主党(公主は日本語の「お姫様」の意)」というスラングも派生している。
党幹部に類縁しないテクノクラート的な実力派若手エリート党官僚を擁した共青団と比類して用いられる場合がある。
また第二次国共内戦での戦闘に貢献したり中華人民共和国の建国初期に貢献している高級幹部の子弟のことを「紅二代」、紅二代でない高級幹部の子弟を「官二代」と呼ばれている[9]。
代表例
- 周恩来 - 李鵬(養子:国務院総理[10])、李小鵬(子:山西省省長)、李小琳(子:中国電力投資集団公司会長兼中電国際社長)
- 毛沢東 - 毛新宇(孫:中国人民解放軍軍事科学院戦争理論戦略研究部副部長、少将)
- 劉少奇 - 劉源(子:全国人民代表大会財政経済委員会副主任委員、上将)
- 林彪 - 林立果(子:元空軍作戦部副部長)
- 鄧小平 - 鄧樸方(子:元全国政治協商会議副主席、中国障害者協進会主席)、鄧榕(子:中国国際友好聯絡會副会長)、鄧楠(子:元中国科学技術協会党書記)
- 葉剣英 - 葉選平(子:広東省省長→全国政治協商会議副主席)、鄒家華(娘婿:元中央政治局委員、国務院副総理)
- 李先念 - 劉亜洲(娘婿:空軍副政治委員、中将)
- 陳雲 - 陳元(子:中国国家開発銀行頭取)
- 曽山―曽慶紅―曽偉(子:投資家)
- 李維漢 - 李鉄映(子:元中央政治局委員、中国社會科學院院長)
- 江沢民 - 江沢慧(妹:元中国林業科学院院長)、江綿恆(子:元中国科学院副院長)、江綿康(子:中国人民解放軍総政治部組織部部長、少将)
- 朱鎔基 - 朱雲来(子:中国中金公司CEO)
- 胡錦濤 - 胡海峰(子:浙江省嘉興市市長)、胡海清(子:新浪前最高経営責任者(CEO)茅道臨夫人)
- 温家宝 - 温雲松(子:優創科技中国有限公司総裁)
- 薄一波 - 薄熙来(子:国務院商務部長→重慶市党委書記)
- 兪啓威 - 兪正声(子:湖北省党委書記→上海市党委書記→中央政治局常務委員)
- 周永康 - 周濱(父親が中国共産党政治局常務委員で中国石油天然気集団の代表であった時代に、息子はその利権を使ってアメリカで石油会社経営し、巨額の財を成したが、父親の失脚により拘束中)[11]
- ウランフ - 孔飛(妹婿:内モンゴル自治区主席)、ブヘ(子:内モンゴル自治区主席)、ブ・シャオリン(孫:内モンゴル自治区主席)
- 習仲勲 - 習近平(子:浙江省党委書記→上海市党委書記→国家副主席→中国共産党総書記・国家主席)
- 姚依林 - 王岐山(娘婿:北京市長→国務院副総理→中央政治局常務委員→国家副主席)
脚注
- ^ 「知恵蔵2011」(朝日新聞出版)
- ^ “「毛沢東」になれなかった薄熙来の悲劇”. WEDGE ITmedia. (2012年4月11日). p. 1
- ^ “中日韩同时进入太子党掌权时代”. 多維新聞. (2012年12月20日) 2018年1月12日閲覧。
- ^ “太子党纷主政东亚韩前总统之女朴槿惠任总统”. 大紀元. (2012年12月21日) 2018年1月12日閲覧。
- ^ “中国「金正男氏に接触するな」北に警告”. 中央日報. (2010年10月13日) 2018年2月21日閲覧。
- ^ “怪异的北韩太子党:追踪金正日长子金正男”. 万维读者网. (2007年2月1日) 2018年2月21日閲覧。
- ^ “金正男:失势的神秘太子爷”. 精品故事网. (2014年4月3日) 2018年2月21日閲覧。
- ^ “朝鲜太子党充当金正恩近卫军”. 多维新闻网. (2011年4月14日) 2018年2月21日閲覧。
- ^ “紅二代|ワードBOX|【西日本新聞me】”. 西日本新聞 (2022年5月2日). 2015年3月23日閲覧。
- ^ “李鵬元首相死去 「太子党」はしり、世襲の根深さ象徴”. 日本経済新聞. (2019年7月23日) 2019年10月11日閲覧。
- ^ 中国・周永康氏事件、親族の特権にもメス Wall Street Journal, 2014 年 7 月 31 日
関連項目
- 縁故主義
- 小皇帝
- 天龍人 (ネット用語)
- 朋党
- 八大元老
- ノーメンクラトゥーラ
- 官倒、官フィア
- 赤い貴族、労働貴族、公務員天国
- 裸官 - 蓄財した資産を海外に移し、(主に留学の名目で)家族を海外に移す高級官僚を揶揄した中国語。
- 紅五類 - 太子党のルーツにあたる階級。反語は黒五類。
- 赤い八月
- 河北大学飲酒運転ひき逃げ事件 - 中国国内で「俺の父は李剛だ」という言葉が流行語となった。
- 中国共産主義青年団 - 中国共産党による指導のもと14歳から28歳の若手エリート団員を擁する青年組織。略称は共青団(きょうせいだん)。
- ルーレット族 (中国) - 中国版暴走族の総称。中流以上の裕福な家庭子弟で構成。互いを相手の乗用車種名で呼び合う等、日本の暴走族には見られない独特の慣習もある。北京の環状道路で多く出没し、社会問題化している。
- 親族関係にある政治家一覧、閨閥、選挙地盤